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2013/02/11

新刊書籍のご案内

 PC版で本ブログを閲覧している方は、すでにページ右上の案内(宣伝)を見ていただいていることと思いますが、このたび六一書房様から刊行された書籍に、南アジアの中期~後期旧石器時代についての一節を執筆させていただきました。
 昨年(2012年)6月に、東京大学で開催されたシンポジウムでの発表と議論を収録したものです。アフリカ・西アジアから、ヨーロッパ、北・中央・南アジア、東南アジア~オセアニア、中国、日本まで、現代型人類の出現と旧人類との交替についての最新の考古学的研究成果を、これ一冊で、しかも日本語で読むことができるという点で、これまでに類書のない画期的な書籍だと思います。ご注文はこちらから(六一書房)どうぞ。なお、部数に限りがあるそうですので、お買い求めはお早めに(販促;)。(なお、ヴィーサル・ヴァレー・プロジェクトの調査については、まだ途上なので言及していません。また別の機会に...)

 さて、自画自賛ばかりではなんですので、課題についても向き合っておかないといけないですね。
 まず、南アジアについては、確実な考古資料がまだ少ないことがあります。インドでの旧石器時代遺跡の発掘調査の歴史は古く、すでに100年を越える学史があるのですが、現在の考古学および人類学の研究が必要とする理化学年代や地学的背景の説明が欠けている資料が大多数を占めているのが現状です。このため、現代型人類の南アジアへの進出を語る際に言及される遺跡や石器群は限られたものになっているのです。
 また隣接する地域-南アジアへ至る経路、または南アジアから先へと至る経路上の、アラビア半島南部、イラン南東部や東南アジアの状況がよく分かっていないことも課題です。ヴィーサル・ヴァレー・プロジェクトは、その空白域を埋めるべく、パキスタンの遺跡での調査を進めているわけです。
 もうひとつの課題は、南アジアに限らず、旧石器考古学全般に言えることですが、人類学や遺伝学から発信される話題性抜群の議論に対して十分に応答できていないのではないか、ということです。確実な資料が少ない、とは言え、化石人骨資料に比べれば考古学資料ははるかに豊富です。しかしながら、考古学資料そのものの説明に終始してしまい、それが人類の進化や世界各地への進出とどのように関わるのかを、考古学者以外に伝えることが難しくなってしまっている側面があると思います(自戒をこめて)。たとえば、ある時代や地域に特徴的な石器群には、それぞれ考古学的な名称がつけられています。有名どころ(とは言っても仲間内の専門用語ですが)では「ムステリアン」「オーリナシアン」とか、もっと細かくなると「バチョキリアン」「セレツィアン」「ボフニシアン」「ヌビアン」等々、ほとんど「じゅげむ」の世界です。
 もっと単純に、この石器群は現代人、この石器群は旧人が作ったもの、とすっぱり言及できればよいのですが、実際のところは、化石人骨が伴わない限りなかなか難しいわけです。また人骨が出土したところで、出土状況の検証や年代など越えなければならないハードルは山ほどあります。このため、考古学者の物言いは、とても慎重なものになってしまいます。よく言えば、手堅い、でも専門家でない人から見ると歯がゆくて仕方がない、というか下手をすれば何を言っているのかまるで分からない、という事態になるわけです。
 ここが考古学者にとっての最大の悩みどころ。本ブログでも、できるかぎり分かりやすく、しかし端折らずに丁寧に解説する、ということを心がけて調査の目的や成果を解説したいと思います。

 なお、本書に書いた内容以降(つまり2012年後半から現在まで)の調査研究の進展を含めた状況については、前回のポストでご案内した、石器文化研究会例会で紹介したいと思います。興味のある方は、どなたでも参加できますので、ぜひお越しください。

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