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2012/09/08

南回りルートの考古学-分かっていること/分かっていないこと(4)

 少々間が空いてしまいましたが、南回りルートの考古学について引き続き解説したいと思います。さて、前回は、考古学(石器技術)と化石人骨の組み合わせについて、2005年頃までに分かっていたことを模式的な編年表に整理してみました。ここにもう一つ、重要な出来事を付け加えておきたいと思います。およそ7.5~7.3万年前に起こった、トバ火山(現在のインドネシア北西部スマトラ島に所在)の新規大噴火(YTT: Younger Toba Tuff*)です。*Toba Tephraと標記される場合もあります。
アフリカ南部アフリカ北部レヴァントアラビア南アジア東南アジアオーストラリア
12万年前石刃
細石器
ルヴァロワルヴァロワ(未到達)
8万年前石刃
細石器
ルヴァロワルヴァロワ(未到達)
7.3万年前*トバ火山大噴火(YTT)
6万年前石刃
細石器
ルヴァロワルヴァロワ(未到達)
4万年前石刃
細石器
ルヴァロワルヴァロワ不定形石器不定形石器
3万年前石刃
細石器
ルヴァロワ石刃
細石器
石刃
細石器
不定形石器不定形石器
*トバ火山新規大噴火の年代は、7.5~7.3万年前とされています。

拡大表示(Google Map、別窓)

 Google mapにトバ火山と、新規大噴火の噴出物(火山灰)の検出地点を落としてみました。青は陸上の堆積物、黄色は海底コアからの検出です(位置は「だいたい」で、精確ではありません)。見ての通り、東は南シナ海から、西はパキスタン沖のアラビア海まで分布しています。インドのいくつかの地点では、一次的な降下火山灰層の厚い堆積(最大1m)が確認されています。さらに、グリーンランドの氷床コアでも、トバ火山の新規大噴火の年代に硫化物の濃度が急激に上昇することが知られており、噴火の影響によると考えられています。まさに人類が経験した中で最大規模の噴火だったのです(こちらもご参照ください:高橋正樹「破局噴火」日本地球惑星科学連合ニュースレター(JGL)6-3:3-6ページ)
画像:現在のトバ・カルデラ(ランドサット画像)Wikimediaコモンズより(http://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Toba_zoom.jpg

 この巨大噴火が人類史に与えた影響を最初に論じたのは、S.H.アンブローズ(Ambrose)です。1998年の論文では、遺伝学が示唆していた同時期の現代人の急激な人口減少の可能性(ボトルネック)やアフリカにおける遺跡数の減少などを挙げて、トバ大噴火の影響で生じた急激な気候の悪化、すなわち「火山噴火の冬」が、現代人ホモ・サピエンスに大きな打撃を与えた可能性を指摘しました(Ambrose, S. H.(1998) Late Pleistocene human population bottlenecks, volcanic winter, and differentiation of modern humans. Journal of Human Evolution,vol.34: 623-651)。

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