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2012/08/15

ネアンデルタールとホモ・サピエンスの悩ましい関係

画像:ネアンデルタール(左:フランス、ラ・シャペル・オー・サン洞窟)とホモ・サピエンス(右:イスラエル、スフール洞窟)の頭骨、PastHorizonsの記事より.ソース:Wikimedia commons 左: http://en.wikipedia.org/wiki/File:Homo_sapiens_neanderthalensis.jpg,右: http://en.wikipedia.org/wiki/File:Skhul.JPG

 引き続き「南回りルート」の考古学について解説を用意していたのですが、またまたニュースが飛び込んできました。アメリカ科学アカデミー紀要(The Proceedings of National Academy of Sciences: PNAS)の電子版に8/14付で、現代人ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の交配関係を見直すという趣旨の論文が掲載されました

  • A. Manica (2012) 
  • Effect of ancient population structure on the degree of polymorphism shared between modern human populations andancient hominins. PNAS, doi:10.1073/pnas.1200567109)*英文、本文の閲覧は有償またはログインが必要
     現代人とネアンデルタール人の関係は、後者の化石人骨から抽出されたDNAの解析によって、いったんはまったく別の系統であり交配はなかったとされたのですが、その後、DNAの部分ではなく全体が解析されるに至って、両者の間に1~4%の共通する遺伝子があることが明らかになりました。そして、遺伝子の共有が現代人の誕生地であるアフリカの集団には見られず、アフリカ以外の集団には見られることから、先に分化した現代人とネアンデルタール人が、現代人の出アフリカ後に再び遭遇して交配したことにより、遺伝子の一部を再共有するに至った、という交配説が示されました。わずか2年前のことです。
     考古学的には、西アジアや北アフリカでは、ネアンデルタール人と現代人がそれぞれ作った石器が良く似ていることや、現代人がヨーロッパに進出した4~3万年前、共存していたネアンデルタール人の石器や装身具に変化が起こって現代人の技術を取り入れているように見えることなどが以前から指摘されていたので、交配説は急速に受け入れられたように見えました。
     一方で、両者に共通する遺伝子が、後の交配によるものではなく、共通祖先からそれぞれが受け継いだものなのではないか、という疑問、批判もあったようです。
     今回の論文は、まさにこの部分を指摘したもので、専門外の私には細かな数式、統計や遺伝学の原理を解説することはできませんが、アフリカ以外の現代人とネアンデルタール人との間の遺伝子の共有は、人口の構造や移動によって説明できるということのようです。
     いずれにしても、この論文が決定打と言うわけではなく、ネアンデルタール人と現代人との関係をめぐる議論は、まだしばらく決着がつかないのではないか、という状況でしょう。

     それにしても、この記事をみて思うのは、いっときブームを起こしたJ.ダーントンのエンターテイメント小説です。スピルバーグ監督で映画化が構想されるも、中央アジアの山中に生き残っていたネアンデルタール人と、主人公の助成人類学者の間にロマンスが...というくだりがその後の遺伝的関係の否定によって成り立たなくなったために映画化はお流れになった、という都市伝説?を聞いたことがあるのですが、研究が進むたびに、2人の関係は揺れ動き続けるようですね。
     さて、決着はいかに?

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